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2025.12.06
遺贈の登記の必要書類は?手続きの方法を解説
ご家族などが遺言書を残して亡くなられた際、その遺言によって不動産を譲り受けることがあります。
これを「遺贈」と呼びますが、不動産を受け取っただけでは手続きは終わりません。
その不動産が自分のものになったことを公に示すために、法務局で所有者の名義を変更する「所有権移転登記」という手続きが必要です。
しかし、この遺贈による登記手続きは、必要書類が複雑で、どのような書類をどこで集めればよいのか分からず、戸惑ってしまう方も少なくありません。
特に、遺言の内容を実現する役割を担う「遺言執行者」がいるかどうかで、準備するものが大きく変わってきます。
そこで今回は、遺贈によって不動産の名義変更をする際の必要書類について、遺言執行者の有無といったケースごとに分けてご紹介します。
遺贈の登記必要書類は遺言執行者の有無で決まる?
遺贈による不動産の名義変更(遺贈登記)は、財産を「もらう側(受遺者)」と「渡す側(登記義務者)」が共同で申請するのが原則です。
亡くなった方は手続きできませんので、「渡す側」の役割を遺言執行者、もしくは相続人全員が担うことになります。
この「誰が渡す側になるのか」という点が、必要書類が変わる大きなポイントです。
遺言執行者がいる場合は登記識別情報や印鑑証明書が必要
遺言書で遺言執行者が指定されている場合や、家庭裁判所で選任された場合は、その遺言執行者が「渡す側」として手続きを進めます。
この場合、相続人全員の協力は不要で、遺言執行者と受遺者(財産をもらう人)で手続きを進められるのが特徴です。
主な必要書類は以下の通りです。
・遺言書
・亡くなった方(遺言者)の死亡の記載がある戸籍謄本(除籍謄本)
・亡くなった方の住民票の除票(または戸籍の附票)
・不動産の登記済権利証または登記識別情報(いわゆる権利証)
・遺言執行者の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
・受遺者の住民票
・不動産の固定資産評価証明書
登記済権利証や登記識別情報は、その不動産の正当な所有者であったことを証明する重要な書類です。
また、遺言執行者の印鑑証明書は、登記申請の意思が遺言執行者本人のものであることを証明するために必要となります。
遺言執行者がいない場合は相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書が必要
遺言書に遺言執行者の指定がない場合、「渡す側」の役割は相続人全員が担うことになります。
そのため、遺言執行者がいる場合に比べて、準備すべき書類が増え、手続きも煩雑になる傾向があります。
遺言執行者がいる場合の書類に加えて、以下の書類が必要になります。
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
相続人全員の戸籍謄本は、法律上の相続人が誰であるかを確定させるために必要です。
多くの場合、亡くなった方の出生から死亡までの一連の戸籍謄本も求められます。
そして、相続人全員が登記手続きに同意していることを示すために、全員分の印鑑証明書を揃えなければなりません。
相続人が多い場合や、連絡が取りにくい方がいる場合は、書類集めに時間がかかることも考えられます。
受遺者が相続人なら単独申請でき一部書類は不要
2023年4月の法改正により、不動産を遺贈された人(受遺者)が、亡くなった方の相続人でもある場合には、手続きが大幅に簡略化されました。
このケースでは、受遺者が単独で登記を申請できるようになったのです。
単独で申請できるため、「渡す側」である登記義務者が存在しません。
その結果、これまで必要だった以下の書類が不要になります。
・不動産の登記済権利証または登記識別情報
・遺言執行者または相続人全員の印鑑証明書
これらの重要書類が不要になるのは、手続きを進める上で非常に大きなメリットです。
ただし、受遺者が本当に相続人であることを証明するために、亡くなった方との関係がわかる戸籍謄本などを提出する必要があります。
この特例は、あくまで受遺者が相続人である場合に限られ、相続人以外の方が遺贈を受けた場合には適用されない点に注意が必要です。
必要書類の主な取得先はどこ?
いざ書類を集めようと思っても、どこで何を取得すればよいのか迷うかもしれません。
書類は、主に「役所」「故人や遺言執行者」「家庭裁判所」の3つの場所で取得・入手することになります。
役所で取得する書類は戸籍謄本や住民票など
多くの公的な証明書は、市区町村役場の窓口で取得できます。
・戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
本籍地のある市区町村役場
・住民票、住民票の除票、印鑑証明書
住所地のある市区町村役場
・固定資産評価証明書
不動産が所在する市区町村役場(東京23区の場合は都税事務所)
本籍地や住所地が遠方の場合は、郵送で取り寄せることも可能です。
故人や遺言執行者から受け取る書類は遺言書や権利証
役所以外で入手する書類もあります。
・遺言書
故人が保管していた場所(自宅の金庫、貸金庫など)から探します。
公正証書遺言であれば公証役場に、法務局の保管制度を利用していれば法務局に原本があります。
・登記済権利証(登記識別情報)
遺言書と同様に、故人が大切に保管していた場所を探す必要があります。
万が一見つからない場合でも、別の手続きで登記は可能ですので、専門家にご相談ください。
・遺言執行者の印鑑証明書
遺言執行者本人に用意してもらう必要があります。
家庭裁判所で取得する書類は選任審判書
遺言執行者が遺言で指定されていない場合や、指定された人がすでに亡くなっている場合などには、利害関係者が家庭裁判所に申し立てて遺言執行者を選任してもらうことがあります。
その際に家庭裁判所から発行される「選任審判書」が、その人が正規の遺言執行者であることを証明する書類となります。
これは、家庭裁判所での手続きが必要になった場合にのみ取得する書類です。
まとめ
遺贈による不動産の登記手続きで必要となる書類は、遺言執行者がいるかいないかで大きく異なることをご理解いただけたでしょうか。
遺言執行者がいればその方と、いなければ相続人全員と協力して手続きを進めることになります。
また、もしご自身が相続人でもある場合は、単独で申請できる簡略化された手続きを利用できる可能性があります。
書類の取得先も役所だけでなく、故人の遺品の中から探したり、関係者から受け取ったりと様々です。
もし手続きの進め方や書類の集め方に不安を感じたら、無理せず司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
専門家の力を借りることで、複雑な手続きをスムーズかつ正確に進めることができるでしょう。


